藤原食ラボ取材レポート:伝統食から発想、地域の四季を映す新名物「藤原うどん」
群馬県みなかみ町藤原地区では、地域の食文化を調査・研究し、土地の記憶を活かした新たな食のコンテンツを生み出す「食ラボ」の活動が続けられています。昨年度は藤原地区のローカルフード「おやき」をもとに、地域の魅力を伝える新名物「藤原焼き」が開発されました。
今年度はさらなる展開として、地域の伝統食でありながら身近な料理である「うどん」をテーマに設定。食ラボメンバーは1年かけてコンセプトやメニューを検討し、2026年3月7日に開催された「藤原雪まつり」で「藤原うどん」を初披露しました。本レポートでは開発までの取り組みを取材し、食ラボメンバーの想いをお届けします。
風の谷プロジェクトとして始まった「食ラボ」活動

群馬県の最北端、四方を2,000m級の山々に囲まれた大自然の中にある、みなかみ町藤原地域。利根川の源流があることで知られる町は、登山やスキーといったアクティビティを目的に毎年多くの観光客が訪れます。
2017年には「ユネスコエコパーク」 に認定され、地域全体で豊かな森林・水資源の持続可能な開発や、多様な動植物と共存した地域の在り方の研究が進められています。そうした流れの中で、2年前より「食ラボ」が発足。慶應義塾大学の安宅和人教授が提唱する“都市集中型の未来に対するオルタナティブを創るプロジェクト”である「風の谷構想」の実現を目指し、自然と共にある藤原の強みを活かした、次代へ地域の魅力をつなぐ活動を続けています。

2024年度は地域の伝統食である「おやき」を調査・研究し、地元で採れる食材とのコラボレーションや新たな調理法を探究しました。その結果、地域色を出しながらも藤原地域の各家庭で気軽に作れる新レシピとして「藤原焼き」が誕生。同年11月に開催された「ふるさと藤原祭」で披露されて以降、地域の新名物として少しずつ周知が進められています。
2回目の実施となる2025年度は、地域の慶弔シーンで振舞われてきた「うどん」をテーマに設定。うどんは現在も藤原地域の各家庭で麺を手打ちするなど、身近な料理として親しまれています。また、藤原地域では「藤原盆」という木製のお盆が生産されていた歴史があり、うどんや団子を捏ねたとされる「こね鉢」も残されています。そうした理由からも、食ラボメンバーは「伝統と親しみを兼ね備えた食のコンテンツを生み出す素材として最適」だと考え、藤原地域の魅力を表現するための新メニューとして「藤原うどん」の開発に取り組みました。
慶弔時のふるまい食「うどん」を研究(第1回試食会の様子)

2025年8月5日、1回目の試食会を開催。食ラボメンバーの「ホテルサンバード」代表・松本亨太さんと兄・松本義親さん、「森林塾青水」塾長・北山郁人さんが参加し、みなかみ町役場担当者や群馬県庁担当者も交えて、試食と意見交換を行いました。

うどんは地域で親しまれている醤油ベースの汁に、麺をつけて食べる「つけ汁うどん」スタイル。
つけ汁は群馬県産もち豚の薄切り肉や藤原地域で採れる山菜を始め、ダイコン、ニンジン、しめじ、こんにゃく、ナス、油揚げ、椎茸、ゴボウなど10種類以上の具材を投入。たくさんの具材をしっかり煮込むことで、素材のコクと旨味が詰まったつけ汁が試作されました。

麺は「細めの縮れ麺」「中太のストレート麺」「極太の手打ち麺」と、それぞれ太さや食感が異なる3種類を用意。麺とつけ汁の相性を確認する中で、「地粉を使うか」「手打ちするか」といった点が検討されました。

調理を担当した松本亨太さんは「地域の方に馴染みのある料理について尋ねたところ『その日に採れた旬の野菜や山菜、キノコをたくさん入れた汁物が家庭の味だ』と話す人が多くいました。そこで、初めて藤原地域を訪れる人にも興味を持ってもらえるような地域色のあるメニューを作りたいと思い、つけ汁うどんの開発を決めました」と話します。

同じく調理を担当した松本義親さんは「具材を大きく切ることで、食べ応えのあるうどんを目指しました。藤原地域の自然の中で食べる“田舎飯らしさ”を、具材や麺でどう表現するかが今後の課題です」と言います。
試食会では、参加者から「麺の太さによって、好みの年齢層がわかれそうだ」「味を洗練することと、田舎らしさのバランスが難しい」といった意見が出ました。藤原地域出身の参加者からは「祖父母が作ってくれた味を思い出して懐かしい気持ちになった」という感想もあり、新名物としての方向性が定まりました。麺の茹で時間や具材の調達方法といったオペレーションについても検討され、具体的な商品化にむけた話し合いが進められました。
<コメント紹介>

みなかみ町役場 企画課 石坂貴夫さん
群馬県内でも「ひもかわうどん」や「おっきりこみ」といった地域色を出した麺類が数多くあるため、レシピをどのように差別化するかが重要だと感じました。試食では、つけ汁に野菜の旨味が濃く溶け出ていて、その美味しさに驚きました。調理の際に、藤原地域の綺麗な水を使っていることが関係しているのかもしれません。利根川源流の町として、うどんを締める水や煮炊きする水、野菜が育つ水に「湧き水」を使うことを条件にするのも面白いと思います。麺打ち体験などと組み合わせ、この街だからこそ味わえる美味しさを地域内外の人に伝えるメニューを作っていきたいです。

森林塾青水塾長 北山郁人さん
うどんは麺や汁や具の組み合わせ方によってアレンジが多彩な料理です。プロの料理人である松本さん兄弟が調理を担当してくださっているおかげで、想像よりも素晴らしい試作ができています。今回の試食の感想や意見を元に、より藤原地域らしいレシピを目指したアイディアを出していきたいです。また、うどん麺を食べ比べることで、麺の太さや種類によって料理の印象が大きく変わることもわかりました。ゆくゆくは地元の小麦を使ったうどんづくりもできたらいいですね。今、松本さん達と共に地域で米作りを始めていますので、農業も含めた「食」という大きな枠で食ラボの活動を考えていきたいです。おやきやうどんといったコンテンツを活用して、風の谷プロジェクトが息づく地域づくりを進めていきたいと思います。
地域の特色を活かした「山のごちそう」(第2回試食会の様子)

2025年10月24日には2回目の試食会を開催。前回のメンバーに加え、食ラボメンバーである「㈱オープンハウスグループ」サステナビリティ推進部・池田悠人さんも参加し、ブラッシュアップされた「藤原うどん」についての検討会を行いました。
麺は商品化後に地域のお店やスキー場のレストハウスで展開しやすいよう、前回試食時に「食べやすい」と好評だった「中太のストレート麺」を採用。茹でた麺を冷水でしっかり締めることでコシを出し、食べ応えを感じられるように工夫しました。

つけ汁は前回の田舎汁をイメージした「具だくさんのつけ汁」と、赤城地鶏と群馬県産ネギを合わせた「地鶏のつけ汁」の2種類を試作。どちらも醤油ベースの汁ですが、「具だくさんのつけ汁」は野菜の甘味を感じるほっこりした味わいで、大きな具材がたくさん入っていて食べ応えがあります。一方、「地鶏のつけ汁」は濃い味付けでコク深く、洗練された印象。わらびやほうれん草、ネギといった具材がちょうどいいアクセントとなり、万人受けする一杯です。

今回も調理を担当した松本義親さんは「具だくさんの汁は、藤原地域の伝統的な食文化を感じられるものですが、地域で広く展開する際には食材調達や調理の面でハードルが高くなりそうです。地鶏ベースの汁は具材が少ないため調理の手間はかかりませんが、その分地域らしさも薄まります。群馬県らしくネギをたっぷり使ったレシピにしましたが、どこまで“藤原らしさ”を出していくかを皆さんと検討したいです」と言います。

さらに、試食会では地域の方から「わらびの塩漬け」を差し入れしていただきました。松本義親さんは「春先の藤原地域ではわらびがよく採れるので、自宅で塩漬けにして一年中食べる人が多くいます。こうした保存食にも目を向けて、藤原地域の色を出したいですね」と話します。
試食時には参加者から「わらびがあると藤原らしさを感じられる」という意見もあり、「具だくさんのつけ汁」をベースに地域の食材を活かしたレシピへ改良することが決まりました。
<コメント紹介>

みなかみ町役場 企画課 地域創生係 須田啓介さん
みなかみ町は温泉やアウトドアといった自然を活かした特徴は色々ありますが、ご当地グルメは他地域と比べると印象が薄いようです。「藤原うどん」を地域食としてブランド化していくことで、観光客へのPRにつなげていきたいと思っています。また、地域内では少子高齢化・人口減少が進んでいますが、「藤原うどん」は藤原地域の文化継承やコミュニティ維持のきっかけづくりにも活用できるのではないかと考えています。食ラボ活動のように地域内のプロジェクトとしてレシピ開発を進めたり、食事を共にしたりする場を作ることが、住民同士の交流や連携強化を促進することにつながればと思います。さらに、ゆくゆくは「藤原うどん」を学校給食でも提供し、子どもたちに藤原の魅力を伝える食のコンテンツとなることを願っています。

㈱オープンハウスグループ サステナビリティ推進部 池田悠人さん
当社は群馬県内で「地域共創プロジェクト」を推進しており、みなかみ町の温泉街や駅前地域の再生・開発に携わっています。特に藤原地域では「群馬みなかみ ほうだいぎスキー場」と「群馬みなかみ ほうだいぎキャンプ場」を事業継承して運営していますので、今回の「藤原うどん」をスキー場やキャンプ場で展開できたらと考えています。そのためにも、今回の試食会を通じて「藤原うどん」の定義や条件を整理し、地域・観光・食が一体となった展開を検討していきたいです。うどんに限らず、藤原地域の良さをアピールできるコンテンツを色々と開発しながら、エリア一帯を盛り上げるお手伝いができればと思います。
「藤原雪まつり」で初披露!今後は四季折々の「藤原うどん」展開を目指す

2回の試食会とオンラインでの検討会を経て「山のごちそう・山仕事のスタミナ食」をコンセプトにしたレシピが完成。2026年3月7日の「藤原雪まつり」に合わせて、藤原スキー場のレストハウス「がんばり山」で新商品「藤原うどん」が初披露されました。

レシピは「群馬県産の豚バラ肉と旬の野菜を5種類以上」使って作られる具だくさんなつけ汁と、「茹で上がり6㎜以上」の太くてコシのあるうどん麺を冷やし締めして提供することを定義。具材の種類や分量には自由度をもたせ、他飲食店や家庭で作りやすいスタイルにしました。
「藤原雪まつり」当日の具材は、群馬県産の豚肉とダイコン、ニンジン、レンコン、油揚げ、塩漬けわらび、ほうれん草、ネギ、シイタケ。たくさんの具材が入ることで見た目も華やかになり、「けんちん汁」に近い郷土料理らしさと満足感を感じられる一杯です。大きく切られた具材がゴロゴロと入ることで「田舎汁」らしさを表現しつつ、豚肉や野菜の甘味・旨味で贅沢さも感じられる仕上がりは、まさに試食会で食ラボメンバーが目指したものとなりました。

当日は雪が降る中、新名物である「藤原うどん」を楽しむスキー客の姿も見られ、計20食分が提供されました。今後もスキー場などで販売を続けながら、地域全体として「藤原うどん」をPRする予定です。
<コメント紹介>

オステリアサンテ オーナー 松本義親さん
「藤原雪まつり」で「藤原うどん」の調理を担当しましたが、想定よりも多く注文が入り驚きました。うどん麺は第1回試食会で人気のあった「中太のストレート麺」で、第2回試食会の「具だくさんのつけ汁」を改良したレシピで提供しています。前回課題となっていた“藤原らしさ”については、旬のキノコや山菜などを取り入れることで、藤原地域の四季を感じられるようにしたいと考えています。冬の時期はフレッシュな山菜やキノコを採ることはできませんが、住民にとって身近な「塩漬けわらび」を使うことで、土地の味を感じていただければうれしいです。他にも、地域には「干しわらび」といった保存食のレパートリーもあるようなので、今後の「藤原うどん」で活用できたらと思っています。つけ汁うどんのスタイルは通年変わらず、季節に合わせて具材を変化させていきますので、ぜひ藤原にお立ち寄りの際はその時だけの「藤原うどん」をご賞味ください。

ホテルサンバード代表 松本亨太さん
「藤原うどん」を開発する中で最も重視したことは、「多くの人が関わりやすいレシピにすること」でした。コンセプトの根幹となっている「藤原地域で長年食べられてきた具だくさんの汁もの」とは、家庭ごと・季節ごとに違いがあるものです。「その日にあるものを全部入れて煮込む」という藤原のスタイルを崩さず、最低限の枠組みを決めてアレンジしやすいメニューとして商品化しました。たくさんの旬のものを入れた栄養満点の汁とうどんを手早く食べられる料理は、山仕事のスタミナ食にも向いていると思います。今後はキャンプやアクティビティの際の食事としても展開していけたらうれしいです。すでに近隣飲食店や学校給食での提供の話も進めていますが、地域で一体となって盛り上げていきたいですね。山遊びや川遊び、雪遊びのおともに、食べる季節や場所の違いも楽しめる“山のごちそう”として「藤原うどん」をお召し上がりください。

森林塾青水塾長 北山郁人さん
「おやき」に続いて「うどん」をテーマに活動した2年目でしたが、「うどん」は懐が広い料理なだけに、オリジナリティを出すことが最も難しい部分でした。旬の山菜やキノコを軸に開発した「藤原うどん」ですが、今後も他地域のご当地うどんとの差別化を目指して、地元の人の意見や食べた方の感想を取り入れ、ブラッシュアップし続けたいと思います。また、メインの食材となる山菜やキノコを安定して供給できるような仕組み作りにも着手したいと考えています。すでに山菜取りの体験プログラムや米作りといった農業に関連した取り組みは始めていますが、「藤原うどん」と絡めた新たな体験型プログラムを考案するのもいいですね。藤原地域は、みなかみ町のなかでも特殊と言えるほど四季がはっきりしていることが特徴です。1か月ごとの変化を肌で感じられる暮らしの魅力を、四季を表現する「藤原うどん」を通じて皆さんへお伝えできればと思います。豊かな自然を活かした新たな食材の活用や高原野菜の栽培など、やれることはまだまだたくさんあります。藤原地域にあるものを活かして、今後も食ラボ活動を続けていきたいです。
ライター:西涼子 撮影:市根井 直規